6月9日 無敵因子

 IWを眺めながら、俺は胸を躍らせている。昨日の屋外探索の効能か、これまでにないような組み込み因子のアイディアが浮かんだのだ。まだ設計段階だが、この理論には自信がある。これはCreatureにとって何物にも勝る能力となるだろう。もうすぐ「無敵」の生命体が誕生するはずだ。
 そう、無敵……。これには「無敵因子」と名付けられてしかるべきだろう。今日という日がIW史に残ることは間違いない。それは同時に俺の名も語り継がれてゆくことも意味している。
 「どうすれば勝てるか?」。それはゲーム理論に対する俺の永遠のテーマだった。しかし、その答えは意外なところに、そして実に単純なところにあったらしい。会社の中で七転八倒して考えこんでいたのが嘘のようだ。「天啓が下った」とでもいうべきか? まるでなにかの授かり物であるかのように、不意に浮かんだアイディアだった。
 「なぜに神は人を見捨てたもうたか」とは、事あるごとに「Lost Children」たちが吐く言葉だ。自らの悪行を省みるための言葉だそうだが、他人にも反省を強要するあたりが気に入らない。だからこそ、神も奴らを見限ったのだろう。
 神がいるとするなら、俺を選んだ理由もよく分かる。発想を形にするだけの才覚が俺にあったからこそ、「無敵因子」も日の目を見るのだ。
 因子の特性については秘密を守らねば……。少なくとも、Creatureの特性がはっきり見えてくるまでは……。場合によっては、百年単位どころではない延命権も取得できる理論だ。

 半日をかけて「無敵因子」のプログラミングは完了した。あとは「卵」に組み込んでIWに送るだけだ。

 ……さあ、我が子よ。強くなれ……。

>>>6月10日