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6月25日 予期せぬ経過

 ……それは予想外の記録だった。「V」の歴史はそのまま戦争の歴史だったのだ。
 俺が入植させた「V’」は敵として認知されてしまった。ほんのわずかな違い、数値データに置き直せば小数点第一千位にも満たないわずかな違いが原因で……。両者は当然のように争いはじめ、目を覆いたくなるような苛烈な戦いが各地で勃発した。
 「無敵因子」を備えたCreature同士の争いは留まるところを知らず、瞬く間にエスカレートしていった。「V」と「V’」そのものの力はある一定以上には上がらなかったが、「家畜の利用」を学習することで争いの規模は爆発的に大きくなっていったのだ。
 凄惨ともいえる歴史だった。家畜や道具、生活システムのすべてが戦争を元に生み出され、つくりだされている。もはや俺には「V」の戦いが手段なのか目的なのかすら見分けられない。……これが「無敵因子」のつくりあげた「文明」なのだろうか?
 いまなお続く加速度的な変化に、俺はめまいすら覚えていた。ほんのわずかな時間に「V」たちの勢力図と「V」によって支配されたCreatureたちの分布図は目まぐるしく塗り替えられてゆく。入植によって定常状態を崩すという最初の狙いだけは功を奏したのかもしれないが、どんな変化が起こったのか確認する間もなく、次の変化が生じるというこのサイクルはあまりに扱いにくい。「V」の進化速度を制御するため、俺は「V’」を消去することにした。
 だが、それこそが最後の引き金だったのだ。これまで自分を押さえつけていた敵が突然消えて、増長したのかもしれない。目に見える形での戦いがなくなり、疑心暗鬼に捕らわれたのかもしれない。あるいは、ただ単純にさらなる敵を求めているのかもしれない……。いずれにせよ、タガが外れた「V」はIWを喰いつぶさんばかりに増殖し、真の意味での暴走が始まった。
 文明の構築と崩壊のサイクルはこれまで以上に加速していった。「V」の変化は、もはやそれを認識する隙すら与えてくれなくなったのである。Creatureの品種改良も進み、その道具としての出力は倍々ゲームを見るかのように増加してゆく。「V」たちの寿命は不自然なほどに延び、その結果として群生濃度も大きくなっていった。そして、「V」たちの快適な生活を支えるためにエネルギー源を強奪され、IWすら徐々に傷つけられていったのである。
 俺にはなにもできなかった。たとえ、手をこまねいて見ている間にIWの傷が修復不可能なほどに拡大していくとわかっていても……。なにをしても裏目に出るような気がして、手を出すのが怖かったのだ。
 そして、俺のIWは崩壊した。「V’」を排除してから三時間後のできごとである。「無敵因子」の実験はこうして唐突に終わりを告げたが、俺にはこの研究が成功したのか失敗したのかすらわからなかった。実験の末に残されたのは、「V」への恐怖だけだったのだ。

 そして、その数分後。会社のネットワークシステムを守る報復型防衛壁「The Nature」が傷つけられつつあることを、俺は知った。

>>>6月28日