6月28日 決断

 The Natureは病んでいた。飼育実験を自らの手で終了させておきながら、「V」はいまなお生きていたのである。
 「無敵因子」はすさまじい勢いでNatureを切り拓き、改造してゆく……。かつて、俺が最高傑作と自負していた反射防壁や復元能力ですら「V」には抗しえなかったのだ。蹂躙され、陵辱されゆくNatureの悲鳴が、俺の耳に痛かった。他人にはとうてい理解できないだろう。かつて俺がどれほどの愛情をNatureに注いできたのかを……。
 この三日間、俺は一睡もせず、Natureを守るためにあらゆる努力を払ってきた。……だが、そのすべてが徒労に終わった。もはや、「V」は俺の支配から完全に逃れていたのである。
 これも「無敵因子」の効果なのだろうか? 損と得を知ることは、すなわち自己と他者を知ることにつながるのかもしれない。それが俺の考えすぎだとしても、このまま放置すれば、そう遠くない将来、やつらが自我を獲得するという可能性も……。

 俺は再び決断を迫られていた。最初からわかっていたことだが、アプローチの方法は一つしかなかったのだ。
 できることならば避けて通りたい道である。だが、やらなければならない。「無敵因子」に勝つには、これしか方法がないのだから……。
 「無敵因子」に勝てる人間は、この俺しかいないのだから……。

>>>6月29日