6月19日 定常状態

 この十二時間、「V」はまったく成長していなかった。それはつまり、なにも「喰って」いなかったということを意味している。
 「V」たちが弱くなってしまったというわけではない。どうやらテリトリーや行動範囲が他のCreatureたちに学習されたらしく、狩り場から獲物が姿を消してしまったのである。
 一種の兵糧攻めかとも考えたが、それを黙って見ているような「無敵因子」ではない。俺が解析したところ、「V」はこれ以上の戦いに意味を見いだせなくなったようなのだ。
 俺のCreatureたちは良質のエネルギーを産出する区画に集落を築いている。わざわざ「生きている」獲物を喰わなくとも、充分生存は可能だろう。そして、周囲から畏怖されるほどの成長を遂げたいま、無意味に戦いを挑んでくるものもいない。生きのびるためにも身を守るためにも、もはや戦うだけの必要はなくなったのだろう。……要するに、「V」たちは定常状態を造り上げてしまったということだ。たったの五日で、俺のCreatureたちは環境の中に完全に溶け込んでしまったのである。
 しかし、これはおもしろくないことだ。停滞は俺の望むところではない。「V」、いや「無敵因子」の存在価値は戦いの中にこそあるのだ。安穏とした生活など俺のCreatureには似合わない。
 結局、敵に恵まれなかったことが「V」の成長を止めてしまった原因なのだ。IWではこれが限界だったのかもしれん。これ以上大きな発展は……、少なくとも「飛躍的な発展」は望めそうにない。
 ……となれば、どうするか……。

>>>6月21日